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中原雄一( 15/07/01 Wed 0:45 更新)

太極拳はなぜゆっくり動く?

はじめに

世の中にはさまざまな武術があります。武術というと目まぐるしく動き回る姿をイメージされることが多いと思いますが、こと太極拳に関しては「ゆっくり動くもの」というイメージが定着しているようです。

逆にいえば、「太極拳」に対して武術というより、「健康体操」「健康運動」と認識している方も多いのではないでしょうか?

私自身は太極拳を正式に学習した経験はありませんが、別の武術を勉強したことで、その価値を再認識するようになりました。今回は、その太極拳が「なぜゆっくり動くのか」について、私なりの考えを述べてみたいと思います(とても1ページにまとめられるような内容ではありませんので、今後も少しずつ展開していこうと考えています)。

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日本で知られる太極拳について

現在数多くの流派(門派)に分かれる中国武術の中で、太極拳については特に「ゆっくり動く」ものというイメージが定着しています。

しかし、その太極拳にもさまざまな流儀があり、すべての流派が必ずしも日本人がイメージする太極拳の姿と一致する訳ではないようです。

すべての太極拳の流派の大本とされるのは「陳家太極拳(陳式太極拳)」であり、最も武術としての要素を色濃く残しているように思えます。ビデオの表演(デモ)を見る限りで、必ずしもゆっくり動くのではなく、その型の中には激しい動作が含まれています。

日本に広く伝わる簡化太極拳は、楊家太極拳という、もともとは陳家で修行した楊露禅という人が始めたものをベースにしていると考えられます。彼が自ら体得していた武術は陳家太極拳の技術そのものだったともいわれていますが、貴族への指導に特化した形が、現在健康体操として普及しているような太極拳の型なのでしょう。

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健康への効果

太極拳が健康によいとされる根拠はいろいろありますが、それはこの運動が「自律神経の働きを整える」効果があるためだと思います。

私たちにも理解しやすいその運動の特徴として

「コントロールされた呼吸運動」

があげられるでしょう。「腹式呼吸」という、横隔膜を大きく使った呼吸運動は、自律神経の調整に非常に役立つと考えられます。

「自律神経」というのは、私たちの体を自律的に調整してくれる神経系であり、「交感神経」と「副交感神経」の2つがあります。例えば、交感神経は心拍数を上げ、副交感神経は心拍数を下げる役割を持つ、というように、この2つの神経はそれぞれの器官に対して反対の役割を果たしているのです。

私たちが息を吸い込むときには、心拍数が上がり、逆に吐き出すときは心拍数が下がる、ということはよく知られた事実ですが、これは呼吸と自律神経の密接な関係を表しているといえます。

このような事実を利用して、比較的短い時間で息を吸い込み、長い時間をかけて吐き出すようにすれば、おそらくは副交感神経の働きが優位になり、比較的リラックスした状態になれると考えられます。

副交感神経が優位に働く結果、皮膚の血管が拡張されますが、おそらくはこれが「」と呼ばれるものの感覚なのでしょう。このような血管の拡張は、血圧の低下にも関係していると考えられます。

正しく筋肉を使うことによる筋肉の動きを感覚が「気」なのだ、という人もいますね。

また、副交感神経が優位に働くことは、内臓の働きが活発になっているということでもあり、内臓疾患に太極拳や気功が有効である根拠になっているといえます。

さらに、横隔膜の上下運動が内臓を刺激し「マッサージ効果」があるのだ、という話も聞いたことがあります。

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パフォーマンスの「最適化」と「維持」

さて、今回のテーマ、「太極拳は武術であるはずなのに、なぜゆっくり動くのか」について、考えてみたいと思います。

これは簡単にいえば、「神経-筋」のコントロールを高度に行うことを目的に行うのだと考えられます。

例えば、武術で片足で立ち、キックを一回行うとしましょう。ある程度練習を行った人であれば、素早いキックでバランスを保つことは容易なことです。しかし、それを意識的にゆっくり行うことは、そう簡単ではありません。ゆっくりとした動作の中では微妙なバランスの崩れも許されないからです。

生死に関わる状況下におかれる過去の武術の世界では、微妙なバランスの崩れや「スランプ」が致命的になります。

先程あげたような「素早いキック」の練習だけでは、知らず知らずのうちに微妙なバランス感覚をないがしろにすることになり、疲労などが原因で筋肉のコントロール方法に狂いが出てしまうでしょう。これがスランプの原因と考えられますが、戦乱の世の中ではそのようなスランプが許されるような状況とはいえません。

おそらくはそのような問題を防ぐために「ゆっくりと動く」練習法が開発されたのでしょう。

初心者にとって非常にゆっくりと動くことは、一切のごまかしのない「神経-筋のコントロール」を覚えていくのに役立ちます(筋肉の使い方の再学習・最適化)。

逆に上級者にとっては、微妙に狂う体感覚を非常にゆっくりとした動作の練習で「矯正」するのに役立つでしょう(筋肉のコントロール技能の維持)。

私が練習した武術の入門型では、腕を伸ばす動作にかける時間の目安が「5分」でした。一つの型を終えるのに2時間くらいかかることになり、太極拳以上に遅い動きでした。

しかしその結果得られる力というのは相当なもので、筋力トレーニングで鍛えた私のパワーも、私にご指導くださった先生には全く通じませんでした。簡単に重心を浮かされ、ひっくり返されるのが常だったのです。

正しくゆっくりと動く練習法がさまざまなスポーツに応用できれば、スランプを最小限に抑えたり、高度に筋肉をコントロールして、パフォーマンスを最適化することも可能になるかもしれませんね。

中国武術の練習体系とパフォーマンスについては、

  1. 脱力によるディファレンシャル リラクセーション(必要な筋肉以外のリラクセーション)
  2. 脱力により、意識して働かせやすい表在筋(体の表面に配置されている大きな筋肉)の力を抜き、深層にある筋肉を開発する
  3. 集中と暗示により、筋力発揮の制限を開放して、筋力を高める

など、多岐に渡ると考えられますが、これらはいずれも、ゆっくり正確に動かなければ実現は困難です。これらについては、また折りを見て紹介したいと思います。

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最後に

本来、武術として練習される太極拳は、ゆっくりとした動作だけで練習が行われるわけではありません。どんな武術でも、ゆっくり動く練習だけで強くなれるわけではなく、やはり実際に適用する練習が必要です。

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